解決事例
被相続人死亡後、関係が悪化するしばらくの期間、相続預金を事実上管理していたところ、遺産分割手続においてその資金移動の開示を求められた事案
被相続人が亡くなられて、しばらくはご兄弟仲良くされていましたが、次第に相互不信となり、ご相談、ご依頼を頂きました。当初、ご依頼者様が、被相続人の預貯金や保険金、証券の解約などをご自身で自己名義口座を含む複数の銀行口座に入金されて、そこから支払に充てておられたため、入手金の経緯が問題となりました。
この点については、当事務所で日付毎に入出金の履歴を精査、膨大な領収証群を紐付けることにより、なんとか相続財産を着服しているという疑念を払拭することができました。
相続人の皆様におかれては、遺産分割協議が成立するまで、できれば自身の預貯金と分けて、単一口座にて相続財産を管理されることをお勧めいたします。
なお、遺産分割は審判(調停成立)時に現存する財産のみを対象とするため、相続開始後に使途不明金が存する場合、別に民事訴訟を提起する必要があります。
相続人が引き継いだ会社に対する貸付金の存在を主張された事案
被相続人が、会社を経営されていたのですが、生前、会社に対して多くの貸付をされていました。相続時にそのうちの大部分が債権放棄せず残っていたため、会社を引き継いだ依頼者に対して、他の相続人から貸金の返還を請求されました。
幸い、依頼者は、会社の債務について、連帯保証人となっていなかったため、会社を事業譲渡の後、自己破産させることで、他の相続人(相続財産)からの会社に対する請求について、依頼者が事実上負担させられる不利益を回避することができました。
近いうち、会社を継承させることを予定している現代表者の方は、後で揉めないために、貸付金を放棄されるか、資本化されることをお勧めいたします。
自筆証書遺言の有効性を争われた事案
相手方より、依頼者に全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言が偽造であると主張され、遺言無効確認請求訴訟が提起されました。幸い、依頼者の方は、遺言者の遺言のほかに、ノートなどに遺言の内容と整合するメモなどをご持参でしたので、これらの証拠を提出した結果、筆跡鑑定などには至らず、遺言が有効であることを前提とする和解に至りました。
自筆証書遺言の場合、後にその効力を争われる余地も相応にあるので、できれば故人の意思が分かる遺言内容と整合する資料(自筆が望ましい)も、一緒に保管されておくとよいでしょう。また認知能力について揉めそうな際は、遺言時の介護記録等、遺言者の精神状態が分かる客観資料を保存しておかれることをお勧めします。なお、法務局保管でない場合、死後、裁判所で検認手続をする必要がありますので、こちらもお忘れないようにされてください。
遺留分減殺請求を受けた際に、音信不通の別の相続人がいた事案
ご依頼者様が、他の相続人より遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害請求)を受けたのですが、実はその際、長期音信不通の他の相続人がおられました。遺留分額は、相続財産合計額を基準に算定するのですが、その際、音信不通の相続人が存命かどうかで1人あたりの遺留分額も変わってきます。
遺産分割調停をしなければならないときは、全員を当事者としなければならないので、音信不通の相続人のために不在者財産管理人を選任するか、もしくは失踪宣告をしたうえで死亡したものと看做さなければならないのですが、当該ケースでは、幸い、遺言があり遺留分の問題しか生じなかったため、ご依頼者様と相談の上、音信不通の別の相続人については、敢えて何もせずに、1人あたりの遺留分額を評価・算定し訴訟手続において和解しました。
遺留分額の算定に際して不動産鑑定を要した事案
預貯金と異なり、不動産については、当事者間でその評価が分かれることが少なくありません。相続税評価額や固定資産税評価額は、宮崎市内の市街地に限って言えば、実勢価格よりも低めに設定されており、相手方が不動産業者作成の簡易査定書を提出してくることも多いです。しかしながら不動産業者作成の査定書の場合、多くの場合、作成依頼者の意向を汲まれたものであることが多く、結果、その評価に隔たりが大きく、裁判上の鑑定に至る場合も少なくありません。
裁判上の鑑定の場合、その申請から鑑定書ができあがるまで多くの時間を要します。また費用については、取り敢えず申し立てた側が負担しなければならないことが多いですが、結果が出るまで、鑑定士と意見交換する機会も限られております。
そこで当事務所としては、多少費用がかかりますが、不動産価格で争いが生じた場合、早い段階で不動産鑑定士による私的鑑定を受けることをお勧めしております。裁判所も、不動産鑑定士の作成する鑑定書については、特段の事情がない限り、その信用性を肯定する場合が多いようです。
死後半年以上経過して、相続放棄が認められた事案
本来、相続放棄は、相続開始を知ってから3ヶ月以内にする必要があります。
しかし、裁判所はこの「知ってから3ヶ月」というのを緩やかに解釈し、相続財産の全部又は一部の存在を通常、認識し得るべきときから起算するというように理解しております。
当事務所で受任した案件では、一次相続の相続人が、最初の相続時に入退院を繰り返しており、実家の荒廃状況が分からない身体状態で、その半年後に二次相続が発生したという事案でした。当職の依頼者である二次相続の相続人は、一次相続についての放棄を希望されておりました。当初、裁判所は一次相続の時点から3カ月を徒過していたことから、相続放棄を認めることに否定的な意見でしたが、当事務所が当時の入通院記録等を提出し、更には経済的に困窮しており、実家の管理等をできる状況ではなかった点を明らかにした結果、いまだ一次相続人の下で熟慮期間が経過していないという判断をして頂き、相続放棄を認めて頂きました。
なお、相続放棄の審判がなされた場合でも、後に被相続人の債権者から無効確認請求訴訟を提起されると、当初なされた審判の効力が覆ることがあります。ただし地方自治体等が家の修繕を求めて、この相続放棄の無効確認請求訴訟を提起するということは、現時点ではないようです。
私立大学の医学部の学費の負担が、特別受益(相続財産の前渡し)であったとしても、持戻し免除の意思が推定されると評価された事案
依頼者がお医者様で、私立医大の学費を被相続人が支払っていたのは、特別受益(相続財産の前渡し)であると相手方から主張された事案でした。一般に、相続人の1人に特別受益があると判断されると、当該受益分について、相続財産の前渡しがあったものと看做され、特に被相続人が持戻免除の意思表示(被相続人による相続財産の前渡しと扱わないようにして欲しいという意思表示)をしていない限り、各自の相続額の計算において受益分を既に受領したものと扱われます。
そのため実務では①この特別受益(「生計の資本としての贈与」)があったのか、それとも扶養義務の履行に過ぎないのか、②特別受益にあたるとして持戻しの免除の意思があったのか、という点はしばしば争われます。
この点、画一的な基準はないのですが、当該ケースでは、もともと依頼者が被相続人の意向により医学部に入学し直したことや、被相続人もまた医院を開業されており相応の資力があったこと等から、仮に特別受益に当たるとしても、②被相続人による持戻し免除の意思が推定される、という裁判所の見解が示され、調停に代わる審判により解決しました。
相続税評価と遺産分割における民法上の不動産評価額の差異を合意書で調整した事案
被相続人に複数の不動産が存した場合に、民法上の実勢価格に基づく評価と税法上の評価が異なることは往々にして起こり得ます。相続税の納期限は10ヶ月であるため、遺産分割の協議や調停手続中で間に合わないときは、相続人間において、暫定的に合意をして相続人間で平等に相続税を負担し後に精算することが多いのですが、小規模宅地の特例の適用がある場合などは、担税感が不公平にならないよう、終局的な負担割合を、代理人間で調整する必要があります。
このような協議に基づく合意書の作成は、民法上及び税法上の専門的知識の上に成り立つので、通常、代理人間及び税理士の終局解決を踏まえた見立てが必要となります。なお弁護士については、利益相反の懸念があるときは複数の相続人を代理することはできませんが、税理士については、特段の事情がない限り、相続税申告を1人の税理士に依頼されることも多いようです。